座談会 ストラディバリウスの歩んだ道を歩きたいのです:俣野勝(名工楽器)・荒井史郎(荒井貿易)・ 司会 桧山陸郎:「ミュージックトレード」1972年10月号より

ストラディバリウスの歩んだ道を歩きたいのです

日本の楽器業界誌「ミュージックトレード」1972年10月号に掲載された「座談会 ストラディバリウスの歩んだ道を歩きたいのです」を「株式会社ミュージックトレード社」のご好意により当ブログに転載する許可を頂きました。当該記事の検索、資料や情報の提供など「株式会社ミュージックトレード社」の親切丁寧かつ迅速なサポートに心より感謝しております。

 

 

 

 

ストラディバリウスの歩んだ道を歩きたいのです

<<座談会>>

 

 

 

出席者

 

俣野 勝 (名工楽器)

荒井 史郎 (荒井貿易)

司会 桧山 陸郎

 

弦楽器に関係のある人なら、メーカーから演奏者にいたるまで、楽器をたたいてみるのが習慣となっている。しかし、このたたくという動作の中にこそ、楽器の死命を制するとも言えるポイントが潜んでいることに気づいている人はそう多くはないだろう。普通の人なら3日もやったら吐き気を催すという打音の聞きわけに3年間を費やし、8千本近いギターをたたいて調整してきた俣野さんは、1千万円のバイオリンでも私にさわらせてくれたら音はけた違いによくなると語ってくれた。

 

 

 

音さえ良く出りゃ形なんて……

 

 

桧山 本日はわざわざ遠いところありがとうございました。先日、日本楽器の銀座店で「ギター診断」という催しがありましたが、かなり好評だったそうですね。あまり音が出ないようなギターでも俣野さんがトントンたたいて、ちょっと削るとまるで楽器が違ってしまったかの様に鳴り出す。まるで魔術でも見ている様な気分になった人がだいぶ多かったと聞いています。

 

俣野 あのときは楽器の音が変わったことを強調する為に、始めに1弦から3弦の音だけを直して一度お客さんにひいてもらう。すると、たしかにその3本だけはよく鳴るようになったと言う。そこで全部の弦を同じように直してあげると、ああこれでよくなったと言って喜んで帰って行く。しかし、あれは魔術なんてもんではありません。ちゃんとした理論的な裏づけがあってやっていることなんですから。

 

桧山 そのあなたの理論が非常にユニークでおもしろいという話を、いろんな人から聞くたびに、一度お会いして話をうかがいたいと思っていたんですよ。

 

 

俣野 これは理論というよりも、むしろ一つの信念なんですが、楽器というものはでき上がった時点で最終的な調整をしなければ、完全な楽器にはならないということなんです。ところがギターメーカーに限って言えば、ある程度の量産メーカーはもちろんのこと、手工メーカーに至るまで、そんなにまでやっているところはありません。品物ができ上がり、一応の検品を済ませると、はい一丁上がりというのが非常に多い。

 

桧山 形や塗装がいくら美しく仕上がっていても、それだけでは未完成だということですね。

 

俣野 そうですね、楽器の最大のポイントは見てくれなんかじゃないんです。音が出るか出ないかということなんですから。極端に言えば、楽器の姿形なんかはどうでもいい。ところが、みんなが懸命になって作っているギターは格好や塗装などの、見てくればかりに気を使っている。それでいて、力木の配列などはまるでお座なりな感じでね。もし、楽器がそういうふうに作れるものなら、これだけ科学の進んだ世の中なんだから、測定器やなにかを駆使して、ストラディバリウスと同じ音の出るバイオリンができてもいいんじゃないかと思う。ところができない。そこに楽器の最大の秘密があるんですよ。

 

桧山 私はかってパリへ行ったとき、ソルボンヌ大学の音響学研究室のプロフェッサーに三角形のバイオリンを見せてもらったことがあるんです。そのとき彼は「過去以来の銘記といわれるバイオリンをいろいろ計測して、得られたデータで、全然形にとらわれないで設計したら、三角形になっちゃった」って言うんです。それをカーテンテストしたんですが、本物のバイオリンとの区別は全くつかなかったんです。その辺のところも、先ほどの話からわかるような気がします。

 

俣野 三角形のバイオリンの音が普通の形のものとまったく同じ音を出す。これは当然考えられることです。ギターにしたところで胴がみんな同じようにくびれていなければならないという理由はどこにもないんですから。ただ理想的な形があるだろうとは思いますけど。

 

 

たたけばわかる楽器の良し悪し

 

 

荒井 私が俣野さんとつき合うようになって3年ぐらいですが、初めて会って彼の主張を聞いたんですが、非常にユニークで今までの楽器メーカーがあまり大きな関心を持っていなかったであろうようなことを主張されたわけです。そこで楽器作りの中での、おもしろい存在だと思ったんです。だから、多くのすぐれた手工ギターメーカーからは「何だ、そんなことはとうに知っていよ」と言われるようなこともたくさんあるんです。ただ、彼の主張のユニークさの最大のものは、音楽いわゆる楽器は音であるということなんです。つまりわかりやすく言うと、ひいて音を出してみるのではなく、楽器をたたいてみて、すなわち打音で楽器のバランスを計ろうということなんです。

 

俣野 そういうことです。たとえば、共産主義国家を例にとれば、それが非常に強力な共産主義国家であるためには、国民のひとりひとりが非常に強力な共産主義者であることが最も望ましい。これは楽器でも同じことで、楽器全体が完全に振動していなければ完全ないい楽器とは言えないんですから、そのように振動させるためには楽器を構成するあらゆる分子、あるいは細胞がすべて同じような緊張状態にあって、一つの刺激に対してあらゆる部分が同じように反応しなければいけないんです。たとえば、弦によって与えられた刺激はよく言われるように、駒を通して表甲に伝えられるものではないんです。カネの輪をつぶして横からたたいてみると、振動はその部分から伝わって行くと考えなくてもいいと思います。全体が同時に振動を始めたと考えてもいいと思うんです。それと同じことで、楽器も輪と同じだと考えればいい。それが私の考えの基本なんです。ですから、楽器について言えば、駒から表甲に伝わるのではなく、駒が振動すれば同時に楽器全体が振動すると考えていいんです。厳密に言うと伝わっているんでしょうけれども。

 

桧山 振動ということを重視しておられるということは、楽器の上に砂を乗せて音を出して、その描く模様で楽器の状態をみるサウンドポイントというようなことから発想されたんではないですか?

 

俣野 いや、あれとは違います。あれでは結局、振動してしまった現象しかわからない。私の場合はなぜ振動するかということを追求するわけです。たとえば、オシログラフなんかでいくら計ってみても、出てきてしまった現象からいきなりその原因を探ろうとしても非常にむずかしいんです。それよりも、この原因からはこういう結果が出るというデータをたくさん集めると、自ずと一つの法則が出てくるんです。そうすると逆に結果を見ただけで原因がわかるということになるんです。原因と結果をはっきりとらえないで、結果ばかりをいくらしらべてみても、ほんとうのところはなかなかわからないですよ。

 

桧山 そういう研究を始められてからどのくらいになるんですか?

 

俣野 4年ほどになります。それでも毎日毎日、何か新しい発見があります。もうそろそろ頭うちになるんじゃないかなんて思ったりすることもありますが、そんなことはないですね。だからストラディバリウスが50年ものあいだ研究を続けたということがうなずけるんです。

 

 

 

たたいたギターが8千本

 

 

 

桧山 さきほどの「楽器が同じような緊張状態を保っている」ということを、もう少し具体的にお話しください。

 

俣野 その楽器のすべての部分が同じような緊張状態にあるということは、その楽器がいちばんいい状態にあるということです。ことばで言うのはやさしいんですが、実際に楽器をそういう状態にもって行くためには、非常に複雑な技術がいるんです。

 

荒井 それをたたいてやるのが俣野さんなんですよ。たしかにギターメーカーの場合、楽器をみるのにたたいて音を出してみる。そしてこのギターがどの程度締められているかとか、固いとか柔らかいとか一応の見わけはします。また、表甲を1枚買うにしても、それをたたいてみたりもする。ところがほとんどの人は、好い加減のところで満足している。ということは、微妙な音を聞き分けるだけの力がないんですよ。

 

桧山 しかし、ギターなんかだったら、実際にひいてみた音で計ったほうがよくわかるような気がするんですが、打音だけでそれほど正確に聞きわけることができるんですか?

 

俣野 ええ。完全と言えるかどうかはわかりませんが、今までに8千本近いギターをたたいて調整してきていますから、かなりの自信はあります。たとえば、テレビの具合が悪いとき、画面を見ながら調節するのは非常にむずかしいんですが、回路の途中に計測器やオシログラフなんかを入れてそれを見ながら調節すると、ぴたっと合わせることができるんです。それと同じで、ギターも弦をはじいて出てきた音で調整するのは、あまりに複雑な要素が絡まってきてしまってかえってむずかしいんです。

 

桧山 すると、たたいてみると簡単にわかるんですか?

 

俣野 そういうことになります。要するに、たたいた瞬間の音は直接的な外からの刺激によって出た音なんですが、そこには必ず余韻というものが残る。つまり、余韻は、そのもの自身の力で振動して音を出しているんですから、そのものの振動能力だけをはっきり示すことになる。ですから、ギターの各部分をたたいてみると、どの部分がどういうふうな振動能力、あるいは刺激に対する反応能力を持っているかが手にとるようにわかってしまうんです。ただ、かなり聞きわけられるようになるためには、そうとうの耳の訓練が必要ですよ。私はそのために3年ほどかけましたけれど。

 

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桧山 それを耳だけじゃなくて、オシロスコープなどの器械を使ってはできないんですか?

 

 

俣野 もちろん私も、電気などを利用して、たたいた音が出ないだろうかと思ってやってみたんですが、それでは雑音みたいな音しか出ないんです。ところが人間の耳というのはうまくできていて、非常によく聞きわけてくれるんですよ。

 

 

 

糸巻き一つも馬鹿にはならぬ

 

 

 

 

桧山 ところで、ギターをみる場合、たたくのは表甲ですか?

 

俣野 いや全体をたたいてみます。

 

荒井 ギターなどの弦楽器では、いちばん重要な部分が表甲だということは事実だと思うんです。弦だけでも当然のことながら振動します。しかし、その場合音らしい音はまるでしないけれども、表甲を1枚はってやるといくらか音は大きくなる。裏板と側板をつけて全体を函状にして、中で空気振動を起こさせてやれば、音はますます大きくなる。だからギターでは、大事な表甲をいかにして振動させてやるか、さらに函状になった中の空気振動をいかにしてたくさん起こさせるかについては、それ以外の部分が非常にたいせつなんです。

 

俣野 それを逆に言うと完全な状態のギターがあるとすると、そのあらゆる部分が完全な振動を妨害する要素となり得るというわけです。たとえば糸巻き一つ状態の悪いのがついていれば、音はたちまちのうちに悪くなってしまう。糸巻きぐらいのことで何だと思われる人もおられるかと思うんですが、バイオリンの糸巻を削ってみるとよくわかるんです。ちょっと削りすぎたりすると、その弦だけがぴたっと鳴らなくなってしまうんですから。

 

荒井 それには私もうなずけるんです。昔から言い続けていることですが、ネックは自動車のエンジンと同じだということなんです。つまり、エンジンの調子が悪くては自動車がうまく走れないのと同様に、ネックがうまくできていなくて、いい音なんて出っこないんです。つまり、ギターにくっついているどんな小さな部品であろうとその一つ一つについて注意を向けていないと、振動のバランスを崩してしまう原因になるんです。そして、あらゆる部分の振動のバランスがとれていないと、その楽器が最大の能力を発揮するなんて、とてもできないんですよ。

 

俣野 これは神経質すぎると思われるぐらいに研究しなくてはならないんです。もし、骨棒やナットやフレットなどの部分を重要視していないメーカーがあったとしたら、それだけでもそのメーカーは落第ですよ。

 

 

座談会 ストラディバリウスの歩んだ道を歩きたいのです:俣野勝(名工楽器)・荒井史郎(荒井貿易)・ 司会 桧山陸郎:「ミュージックトレード」1972年10月号より

 

 

 

桧山 楽器が鳴らないことの原因は、弦が楽器に合っていないんだから、弦を合うやつにとりかえてやれば、鳴るようになるんじゃないですか?

 

荒井 そりゃ昔から楽器は”弦を選ぶし弦は楽器を選ぶ”と言われているぐらいですから、当然楽器に合わない弦をつけていたんじゃ鳴りっこないですよ。

 

俣野 ところが最近気がついてんですが弦を楽器に合わせるだけじゃなくて、楽器のほうを弦に合わせてやることができるんです。ただ一つだけ困ることがある。たとえば裸線の部分ですと、ちゃんと調弦した場合の緊張の度合いはきまってきますからそれに楽器を合わせることができるんですよ。ところが巻線ですと、外側に巻いてある線は、いくら弦を張っても最初の状態と変わらないで、中の芯(しん)だけがどんどん緊張してしまう。所定の音程まで上げたときに芯の緊張と外の巻線の緊張の度合いが違ってしまって、どちらに合わせたらいいのかわからなくなってしまう。結果として鳴らなくなっちゃうんです。今、この問題で頭を痛めているんですがね。

 

 

 

 

銘器がはずみでできたなんて

 

 

 

俣野 ギターでいちばんたいせつな部分というのは、多くの人が考えておられるようなところにはないんです。たとえは、ストラディバリウスを足で踏みつぶしてバラバラにしてしまう。それをニカワで接着して元どおりに復原する。音は変わらないんです。銘器の音はほとんど失われない。このことから考えてみても、表甲がたいせつな震動源であるには違いないんですが、音を左右する最大のポイントは、実は別のところにあるんです。

 

荒井 私もストラディバリウスがなぜあんなによく鳴るんだろうと思って、さんざん音響学的に研究したことがあるんです。ところが、どんな学者先生にしらべてもらってもわからない。結局はその人もさじを投げてしまって、木が枯れているから鳴るんでしょうぐらいの結論に落ち着いてしまった。そこで、音楽とか楽器、特に共鳴する音には、音響学なんかでは解明できない、非常に複雑なものがあるんだという私なりの結論を出したんです。

 

俣野 ところがそれが解明できるんですよ。

 

荒井 と、俣野さんはおっしゃるんですが、その理論だって絶対とは言えないんです。ストラディバリウスにしたって、そんな研究を続けて、あんな銘器を作り得たのかどうかはわからないんですから。

 

俣野 私はそれを信じているんです。そして私の考えているようなことが、当時のクレモナの町では常識だったんじゃないかと思うんです。だから、そのころのクレモナで作られたバイオリンがみんなよく鳴るんです。私はまだ世界的に有名な銘器と言われるようなものは作ったことはありませんが、方向としてはストラディバリウスが歩いた方向からそれほどずれてはいないはずだと信じているんです。ただ、ストラディバリウスは天才であって、しかも50年ものあいだ研究を続けたということと、私は凡才であってまだ4年しかやっていないという違いはありますが、方向としては他には考えられないと思っています。

 

座談会 ストラディバリウスの歩んだ道を歩きたいのです:俣野勝(名工楽器)・荒井史郎(荒井貿易)・ 司会 桧山陸郎:「ミュージックトレード」1972年10月号より

 

 

荒井 しかし、それはあなたの信念でしかないんですよ。古今東西の銘器と称されるものでも、ただ何となくうまくできたというものもあるような気がしてしようがないんです。もしストラディバリウスがあなたのように研究を続けたものだとしたら、彼の研究と技術がなぜ後世に伝えられなかったかが不思議です。

 

俣野 しかし、現実に1千万円もするバイオリンでかなりいい音を出しているものでも、ちょっと直すとけたはずれた音になることはうけ合えますよ。そういう意味では、多くのメーカーが必死になって調整したにちがいないバイオリンでも、私のやり方でたたいてみれば、それまでは見つけ出すことのできなかった欠陥を見つけ出すことができるんです。

 

 

 

現実に私のギターはよく鳴ります

 

 

 

桧山 今までの話から、あなたの考えもだいぶわかってきたんですが、現在おたくで作っておられるギターはどの程度のものですか?

 

 

俣野 商品として作っているのは、裏板にベニヤを使っているので、ベニヤの音しか出てきませんが、ベニヤの中ではかなりレベルの高いものだと思ってますよ。しかも日に日によくなっています。今までにできたうちでいちばんいいのは、裏板にブビンガーの挽板を使ったやつなんです。これはこのあいだの「ギター診断」のときに会場へ持ってきてみんなにひいてもらったんですが、音がカチカチという点を除けば、70万円アルカンヘルよりはるかにいいという評判でした。プロのギタリストも言ってましたがバランスもいいし、ボリュームもあるし、手ざわりもいい、ただ残念なことに、裏がブビンガーの挽板であることと、表が杉ということで、アルカンヘルよりもピアニッシモの音がカチカチいうということでした。

 

桧山 普通ギターをみると表甲には松系統の材料を使っているのが多いんですが、今杉を使ったと言われましたね。杉の利点というのは。

 

俣野 ボリュームが出るんです。ただ、いくぶん音質が松にくらべると劣るんですよ。それを私の言う理論で調整してやるとボリュームを落とすことなく音質をひき上げてやることができるんです。

 

荒井 しかし、あなたの言うようにして楽器を作ったとして、それがほんとうにいい楽器であるかどうかがわからない。たたいてみて全体が同じように振動するという理由だけで、それを即座にいい楽器だとは認められない。つまり、振動数だけでは楽器の良し悪しはきめられない。ボリュームと音質のことも常に考えていなくちゃならない。ボリュームと音質が振動に大きな関係があることはわかるんですが、ボリュームを大きくすると音質が落ちる、逆に音質をよくしようとするとどうしてもボリュームがのほうが出なくなってしまうという相容れない関係なんですよ。だから、我々がギターを作るときには、その両者のいちばん高いところを、そのバランスのとれる点を求めているわけです。

 

俣野 ところが私の考えは違うんです。これはある人から聞いた話ですが、レンズは口径が大きくなればなるほどピントがあまくなる。この理くつを楽器にもあてはめて、ボリュームを上げて行けば音は悪くなるということをいう人がいるがこれはまちがっています。

 

桧山 さっきの杉だとボリュームは出るけれど音質が松より劣るということばと矛盾するんじゃないですか?

 

俣野 そうではないんです。杉の板を使っていながら、音色をよくしようとしてボリュームを下げてしまったのでは、杉の板を使うことの意味が全然なくなってしまうではありませんか。ラミレスが杉の表甲を使っていいギターだと言われているのにはそれなりのくふうと処置が施されているからなんですよ。

 

 

座談会 ストラディバリウスの歩んだ道を歩きたいのです:俣野勝(名工楽器)・荒井史郎(荒井貿易)・ 司会 桧山陸郎:「ミュージックトレード」1972年10月号より

 

 

力木こそがギターのいのち

 

座談会 ストラディバリウスの歩んだ道を歩きたいのです:俣野勝(名工楽器)・荒井史郎(荒井貿易)・ 司会 桧山陸郎:「ミュージックトレード」1972年10月号より

 

座談会 ストラディバリウスの歩んだ道を歩きたいのです:俣野勝(名工楽器)・荒井史郎(荒井貿易)・ 司会 桧山陸郎:「ミュージックトレード」1972年10月号より

 

 

桧山 さきほどききそこなってしまったんですが、音を出すための最大のポイントというのはいったいどこにあるんですか?

 

 

俣野 それは力木なんです。それも小さなものは大したことがないんです。1本くらい落ちたって、大きな力木さえきちんきちんと調整してやれば、音はほとんど変わらないんです。つまり弦楽器の場合、弦と楽器を合わせるポイントが力木にあるということなんです。ギターですと、よく板が厚いから、あるいは力木が強すぎるから音が出にくいんだろうなんて言う人がありますが、そんなことは絶対にありません。もし、そうだとしたらフレータなんか音がまるで出なくなってしまう。力木がものすごく頑丈にできているんですから。たては9本、横は4本、それに下にも4本あります。逆にハウザーのギターなんかでは、上に3本、たてに7本しかありません。しかも、非常に細いのがね。ですけれど、出てくる音を聞いてみると、とても優劣がつけられない。そこいらへんのことを誤解しておられる人が非常に多いように思うんです。

 

荒井 あなたがよく言われるように、楽器の基本的原理を知らない人がいかに多いかということですね。

 

俣野 そう言えます。基本を知らないでいて楽器を作っておられるメーカーや販売に携わっておられる業者のかたがたがぐんぐん伸びておられることが不思議でしようがない。

 

桧山 でも、それが現実だし、あまり深く知らないほうが、かえって恐れずに突進して行けるということがあるんじゃないですか?

 

俣野 たしかにそういうこともあるでしょう。けれど知っていたほうがもっといい楽器が作れるはずなんです。私は以前にピアノをたたいてしらべてみたことがあるんです。ひいてみると隣同士の音がまるで違うピアノから出てきた音みたいに違っている。これはけっして響板なんかのせいじゃない。もっと違うところに問題がある。それでいろいろやってみたら、フレームがだめなんです。フレーム自体が同一の緊張状態になる。弦の一方は駒にくっついているけれど、もう一方の端は必ずフレームについている。つまりこの両者が同じような緊張状態になれば、ほんとうにいい音なんて出てきっこないですよ。力学的にいくらりっぱなフレームを作ってみたところで、音響学的にはだめなものなんだから。これは声楽の歌手だって同じなんです。実際にうたっているところをたたかしてもらったこともあるんですから。

 

桧山 こうやって話を聞いていると、俣野さんという人は楽器キチの中へ入れても良さそうな人ですね。

 

荒井 そうなんですよ。私はそこんところを買ったんだから。常識で考えても、音響学的に見ても、一応はその理論を認めざるを得ないんですから。

 

桧山 最後に、俣野さんの理論というのを一口でまとめると、弦楽器の場合、その材質、つまり現時点では木ですが、それの持っている固有振動をいかにうまくひき出して、その楽器に最高の能力を発揮させようかということになりますね。

 

俣野 そのためには何度も言うようで恐縮なんですが、楽器全体が完全に一様な振動能力を持っていなければならないということです。ですから、完全な各部を作り上げることができて、それをひとつの楽器にまとめ上げれば、その楽器こそ最高の楽器であるというになるはずなんです。

 


 

 

 

資料提供:

株式会社ミュージックトレード社

「ミュージックトレード」は1963年に創刊された日本の楽器業界専門誌です。

 

 

 

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