クラシック・ギター製作家インタビュー: グラハム・カルダースミス (オーストラリア)

グラハム・カルダースミス

今回のギター工房インタビューはオーストラリアのグラハム・カルダースミスさんです。 

 

Q1. あなたの工房とその歴史についてお聞かせください。

流体物理学の修士課程を修了した後、1974年にオーストラリア国立大学でギターとヴァイオリンの物理的な作用についての研究を始めました。アーミデイルのニュー・イングランド大学のナヴィル・フレッチャー教授、 ストックホルムのエリック・ヤンソン教授と共に行った集中的な研究の後、1979年にキャンベラのオーストラリア首都特別地域にて実験的な楽器製作を始めました。そのすぐ後、伝統的な設計に回帰しました。ギターやヴァイオリンがそのように進化してきたにはそれなりの重要な理由があると言う事に気がついたからです! 

80年代に私は数ダースのヴァイオリン、ヴィオラ、そしてチェロを製作すると共に、キャンベラの音楽家達の楽器の修理をしていました。1980年にはオーストラリア研究委員会に授与された機器を使ってヴィオリンとギターに於ける振動と音の発生についての論文を多数執筆しました。この古い装置は今でも使っています!

「ギター・ファミリー(訳者注:1980年に始めてバリトン・ギターを製作したのをきっかけに、グラハムさんは様々な音程のギター属の製作を始めた)」の改良を進めるとともに、オーストラリア議会の奨学金でベースとトレブル・ギターの試作品を作りました。それらの楽器はキャンベラのギター四重奏グループ 「ギター・トレック」の初期の演奏に使われ、現在も続いているツアーや録音にはアップグレードされた楽器が使われています。このギター属は現在ヴィクトリアの「メルボルン・ギター四重奏団」、ニュー・サウス・ウエールズの「フレッターニティ」と「ズー・デュオ」、そしてオランダの同僚達に使われています。カルダースミス・ギターズのwebページにはYoutube上の「ギター・ファミリー」音楽がたくさんリンクされています。 幾人かのプロの音楽家達はバリトン・ギターをアンサンブルで演奏するのに加えて独奏にも用いています。

一部のオーストラリアのギター製作家達の様に、私は1990年代に伝統的な設計を止めて格子構造デザインの発展に取り組み始め、「ギター・ファミリー」の楽器に応用しました。2000年代には、私のパートナーのアンジェラと共にバルサ / カーボン・ファイバーによる傾斜した四角形の格子状デザインに加えて「“グランジ”・ラティス・デザイン」を発展させました。現在、私達は通常のギターと「ギター・ファミリー」の楽器:ベース、バリトン、標準、ソプラノ、そしてオクターブ(詳しくはwebを参照)に両方の種類のラティス・デザインを使っています。

 

 

Q2. あなたにとって良い音のするギターとはどのようなものですか?またそれを獲得する為にどんな工夫をしているのですか?

良いギターとは、遠達性、サステイン、バランスを備え、音に華がなければいけません。

遠達性を得るためには80Hz〜5kHzの範囲で効率の良い音の発生を必要とします。私達のデザインでは、後板と横板をとても硬質なものにし、振動のロスを減らすことによってこれを獲得しています。アクティブ・ライト、ラティス(格子状)に補強された表面板をリアー・ボウト(ギターの大きい方の膨らみ)へ制限し、ウッド・ロスを減少させ放射性を向上させています。 ラティス(格子)はブリッジ周辺を強化するために傾斜状になっており、そのエッジは550から2000Hz間の多極振動モードの効率を向上させる為に柔軟性を持たせてあります。

サステインは後板、横板と表面板の振動ロスを減らすことによって獲得しています。表面板のロスを減らすことは、各音程の倍音成分をゆっくり減衰させ、20フレットまでのすべての音にカラフルなビブラートをもたらします。これは伝統的なギターでは滅多にありません。

バランスは表面板の共鳴とその間の減少が補い合うする周波数にラティスを設計する事によって得ています。例:弱い基音は強い第2、第3倍音によって補われます。表面板は接着される前にボディーに固定され、ラティスの力木やカーボン・ファイバーの柱頭を減らす事によって好みの周波数特性に調整されます。

音色はどんなギターでも、その総合的なデザインに依存します。私達のラティス・ギターは後板、横板、そして軽量な表面板での低い損失により、総合的にサステインの長い倍音、「華」のある音色、そして豊かなヴィブラートを獲得しました。全てのギターに於いて、強い共鳴に近いいくつかの高音で、その基音がより早く減衰してしまう事を避けることができませんが、私たちは塗装をする前に弦を張って共鳴周波数の微調整をする事によってこれを最小限に抑えています。12フレット以上のサステインの長い基音の豊かさと、低音にのる強い倍音が私たちのデザインの特徴です。新しいカーボン・ファイバー弦も内的ロスを抑え、ラティス楽器のサステインの長い特徴を引き出します。

 

 

Q3. 弾き易いギターを製作する事について考えをお聞かせください。そして、その為にどんな工夫をされていますか?

私たちの製作するネックは弦を緩めることなくサウンドホールを通してネックリリーフを調節できるような二重構造のトラス・ロッドで取り付けられています。残念ながらエボニーは湿度の変化による木材の伸縮率が非常に高く、 通常ネックリリーフが変化し乾燥した気候ではフレットがはみ出したり、指板の曲面が変化したりしてしまいます。我々の指板はいくらかの伸縮を許容し、指板のたわみを防ぐため、丸みを帯びさせています。低音側は高音側より1mm低く、サドルがほぼ水平になるようにしてあります。これによって高音弦をより高くすることで、演奏者の右手がより楽になると思われます。

トラス・ロッドは弦のテンションによってネックが反ることなく、ネックの深さをより低くすることを可能にします(約15mm)。ネックは高いフレットまでつながっており、フロント・ブロックの小さな動きによって12フレット状でねじれることを防ぐためにボルトでボディーに固定されます。これらは調整や修理のために簡単に取り外せます。このデザインによって、リブとヒールの間、そして指板の高い領域とギターの表面板との間で、塗装を割ってしまうことなく動かすことも可能になります。

 

 

Q4. 伝統的なフレンチ・ポリッシュ(セラック・ニス)や新しい方法(ラッカー、触媒)などの仕上げの方法について、あなたの考えをお聞かせください。

フレンチ・ポリッシュの技術と美しさに敬意を払いますが、私達は細孔充填の後にニトロセルロースをスプレーしています。耐水性があり(我々はこすって拭き取り直し、湿った紙で磨き、更に磨きます)汗に対する耐性があるからです。 修理をするのも簡単で、後板、側板とネックはグロス磨き、表面板は超精細スチール・ウールで磨きます。

 

 

Q5. 640, 628 や 615mm などのショート・スケール・ギターに於いて、弾き易さ、設計、音質や音量の観点から、あなたの考えを聞かせて下さい。また、手の小さい人や女性ギタリストの増加によってそれらショート・スケールの需要は伸びていますか? 

私達の標準サイズは650ですが、640や630のスケールのギターも喜んで製作します。もし最新のミディアム・ハードまたはハード・テンションの弦を張れば音色にはなんの遜色もありません。

 

 

Q6. 多くの読者がギターを色々と試奏していく内にますますどのギターが良いのか分からなくなってしまう様です。製作家の立場から、楽器店や工房でどのようにギターの音質や弾き易さをチェックしたら良いのか、アドバイスを頂けますか?

  1. 1弦上10フレット〜19又は20フレットの音を弾いて、それぞれの音のサステインと音量を聞いてみてください。そして、それらの1オクターブ下の音を異なる複数の弦上で弾いて、「華」のある音質かどうかを聞いてください。
  2. 1弦上の5〜10フレットの音を弾いて、不快にも細い倍音のみを残すだけでよく響かない音があるかどうかをチェックしてください。
  3. ギターの横から低音弦で早く減衰する音を見ながら、「エアー・レゾナンツ(ヘルムホルツ・共鳴)」の音を探してください。通常はF#、G又はG# (更にAであるギターもあります)です。 また、音に強くて短い基音を聞くでしょう。倍音の均衡のとれたギターではこの影響を最小限に抑えられ、低音のミの音からドまで半音階を弾いた時にこのことがあまり問題とならないでしょう。
  4. 速い減衰を見ながら、そして強くて短い基音を聞きながら、表面板の共鳴音を探して下さい。通常は3弦上でソ、ソ♯、またはラで、音の一部というより、ブーンと反響音のように響くかも知れません。 倍音の均衡のとれたギターではこの影響を最小限に抑えられ、それらの音をどの弦上で弾いても問題にならないでしょう。もしこの表面板の共鳴音がエアー・レゾナンツより1オクターブ高ければ(しばしばそうですが)そのギターの低音は不均等です。
  5. 解放弦を伴うコードとよりハイポジションで全ての音が押さえられた(セーハされた)コードの両方を弾いて、低音に比べて高音がどのように減衰するかを聞いて下さい。高音は通常低音より速く減衰しますが、サステインの長い高音は効率の良く、表現力の高いギターである証です。
  6. ロー・ポジションとハイ・ポジションでスケールを強く、そして弱く弾いて音質と明瞭さを聞いて下さい。これは音楽的に重要な価値となる、そのギターのダイナミック・レンジを意味します。
  7. 低音や高音をスル・タスト(指板上)やポンティチェロ(ブリッジの側)で弾いて下さい。音色や音量をコントロールしやすいですか?(これには高域倍音成分が重要な役割をします)。​

 

 

Q7. 顧客に対してアフター・サービスはありますか? 特に、高額なギターの購入について心配している人たちも多いと思われるのですが。

私たちは10年後であっても事故によって生じたもの以外の如何なる欠陥も無料で修理します。 運送料は応相談です。もし海外に出荷した我々のギターが現地のギター工房によって調整、修理が必要となった場合は私たちがその代金を払います。割れ等深刻な欠陥があった場合はギターの交換に応じます。その際運送料は応相談です。もし注文後に、(ギターが気に入らない等)購入を見送りたいと思われた場合は、そのギターが返却され、それを別の顧客に販売完了後に頂いた前金を返金します。もし可能なら、新しい楽器を提供致します(フレットの取り付け、トラス・ロッドやサドルの調整無料、運送料は応相談)。

 

 

Q8. ブラジリアン・ローズウッド(ハカランダ)などの木材がますます入手困難になってきていますが、それはあなたのギター製作や完成したギターの品質にどのような影響があると思いますか?

我々はインディアン・ローズウッド、メープル、そしてCITESに登録済みの卸売業者から熱帯雨林種の木材を輸入しています。 しかしながら、本大陸とタスマニアのオーストラリア原生の木材もいくつか使っています。私たちのデザインは後板と側板による音響的な影響を最小実に抑え、ラテュース(格子)が表面板の大方の振動を決定することから、伝統的な楽器ほど木材の持つ音質に頼らずに済むからです。しかし、私たちは全ての木材の持つ美的な魅力には注意を払っており、色や形の豊かな木材を使用しています。

 

 

Q9. 21世紀に於いてギター製作というこの美しい伝統はどうあるとお考えですか?

当然ながら、私達のデザイン、特に有能なギターリスト達によるユニークな編曲やオーケストラ、鍵盤楽器、そして弦楽アンサンブル曲、バッハのオルガンのためのトッカータ二短調やヴィバルディの二重ヴァイオリン協奏曲イ短調(メルボルン・ギター4重奏団)に至るものまでの録音をもたらした「ギター・ファミリー」がクラシック・ギター音楽の演奏や作曲に新しい局面をもたらすことを願っています。「ファミリー」のための作品はオーストラリアの作曲家達による新しい作品のカノンを生み出し続け、「ファミリー」による演奏は独奏演奏家としての職業を得る機会が無かった優秀な演奏家に可能性をもたらすのです。

 

ギャラリー: 

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