作曲家:
ライナーノーツ:
ルイス・デ・ミラン(1500年頃 -1561年頃)はスペインのルネサンス期の作曲家でビウエラ奏者でした。ビウエラ・デ・マノとは15・16世紀のスペインで盛んに演奏されていたギターのような楽器で、この曲はそのビウエラの為に作曲されました。
ルネッサンス運動とはギリシャの古代文明を再研究・再解釈することによって美を探求するというものです。この古代回帰による美的追求は西洋史においてその後も繰り返され、特に18・19世紀にそれを見ることが出来ます。古代ギリシャの芸術といっても建築・文学・演劇・造形美術とは違い、音楽に関しては実際の音として形が残っているわけではないので、失われたものを想像しながら再現することになります。
ルイス・デ・ミラン等スペインのビウエラ奏者は、声楽ポリフォニーを厳格さにこだわらない柔軟な姿勢で楽器に対応させたり、ルネッサンスの合理的・実際的な考え方を取り込むことによって斬新で特徴的な器楽音楽作品を生み出しました。中でも最適な例が「ファンタシーア」様式で、作曲家は拘束的で支配的な既存の音楽形式よりも即興性と創造性を優先しました。
未だ音楽は言葉を伝達する手段と考えられていた為、言葉を持たない器楽は声楽音楽のような地位を得ていませんでした。その意味で、ルネッサンスはこれから長期間に渡ってゆっくりと進行していくことになる「器楽音楽の正当化」の開始点として重要な役割を果たしました。ルネッサンス期以前は理論(理論家)と実践(演奏者)の役割が明瞭に分断されていました。この時期に開花した演奏家による演奏技術と知的啓発という総合的精通に対する探求は、ようやくロマン派時代に完結します。
このファンタシーア第10番など、いくつかのファンタシーアに見られる「コンソナンシア(和音による即興演奏)・イ(and)・レドブレス(巧みで快速なパッセージ)」様式は当時の演奏技術発展に対する要求やミラン自身の演奏表現(モード、テンポ、音色)に対する関心、ミランの論文「エル・マエストロ(バレンシア、1536年)」に見られる楽器の科学的な見地を融合させ、芸術としての器楽音楽の正当性を達成する試みであったと見ることができます。
このファンタシーアはコンソナンシアス(ゆっくりとしたパッセージや和音による展開)とレドブレス(快速な音階によるパッセージ)という二つの対照的なセクションを交互に繰り返します。